大阪環状線の天王寺駅の隣に寺田町という駅がある。北口の改札を抜けて、そのまま駅を出ると信号があり、渡ったところにはマクドナルドがあった(今もあるかどうかはわからない)。店の右側にはくねくねと路地が続き、右に「凡友」という中華料理店を見ながら(たぶん今はもうないだろう)路地道をぶらぶら歩くと、猫間川通りに出る。名前の通りかつては川だった道だから、なだらかにうねりながら生野区を横切っていて、左に行けば勝山通りへ、右に歩けば源ケ橋の交差点へ、少し道をずれて西生野小学校がある道をまっすぐ行けば、疎開道路に出る、そのあたり一帯が、僕が子どもの頃暮らした街。
源ケ橋の交差点にはその名も源ケ橋商店街というアーケード通りの入り口があり、入ってすぐ左には傘屋のK山君の家があった(きっと今もある)。もうちょっと行くと大きな店構えのK藤くんの布団屋があり、さらに奥へ入ると公設市場なんかがあったりして、独特のディープで賑やかな雰囲気になり、やがて疎開道路へ繋がる出口になる。別にそんなにその商店街が暗いというわけではないけど、幅が若干狭いせいか、出口近くの本屋が見えたあたりから、まるでトンネルを抜けたかのような気分になったものだ。そこの本屋さんと、商店街を出て疎開道路を左に曲がったところにある小さな本屋が僕の行きつけ。漫画ならここ、学研のひみつシリーズや探偵クイズ本なんかあそこと、ちゃんと品揃えが分かれていたのよね。
疎開道路を渡るとまたアーケード街がスタートする。その名も「生野銀座街」。こちらは道幅がわりと広くて、舗道の敷石の色や上の照明も明るいものだから、なんとなく垢抜けた雰囲気がした。お店もファッション系が多かったんじゃないかな。あまり小学生の僕が立ち寄る店はなかったけど、それでも僕はひたすらアーケード街に自転車を走らせる。団地の公園が見えたあたりから俄然道は広くなり、ずいぶん手前からでも出口が見えてきて、そこからスピードを落とし、いよいよお目当ての店へ。
その「ミッキー楽器店」は、おそらく町内で一番大きなレコード屋さん。もちろん楽器店なんだから壁にはギターがずらっと並んでいたんだけど、店内にはびっしりとレコードが売っていた。そこに行くと僕は、最低でも1時間は、次から次へとレコードを引っ張り出してはジャケットを眺めて過ごしたのさ。自分のお小遣いでは、せいぜい月にシングルが1〜2枚買えるくらい。中学になって、やっと月に1枚アルバムが買えるようになって、だから1ヶ月間はたっぷり吟味期間。どれを買うか選りすぐらねば。
店長さんはミッキー吉野のようなお兄さんで、ほとんど言葉は交わさなかったんだけど、僕のことを覚えてくれるようになると、販促用のポスターをどれでも持って帰っていいよって言ってくれて、ある時、これもあげるよと言って買ったレコードの袋に一緒に入れてくれたのが、週刊になり始めた頃のまだモノクロだった「オリコンウィークリー」。
そりゃあもう、隅から隅まで読んださ。1位から100位のランキングの中で並んでいる曲名や歌手の名前は知らないものばかり。いったいこれはどんな曲なんだろう。
その頃から僕は今までずっと、そりゃもうたくさんの曲を聞いてきたよ。ヒットチャートのランキングと見比べながら。ただ「いい曲」かどうかだけじゃなくて、どういう曲が売れて、どういう曲が売れないのか、僕は今もずっと研究し続けているのです。
冴沢鐘己
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出演:TIME FOR LOVE、BBガールズ、籾井優里奈、安部美香、山下圭志、あきっすん、西村美紀 MC:曽我未知子、伊藤直輝、久保翔子、如月凛 ほか
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