"懐かしさというスパイス”という言葉がありまして。いや、そんなのあったかな。僕が勝手に作った言葉かもしれない。まあ、わかりやすく言うと、「やっぱり昔の歌は本当にいいのが多いねえ。それにひきかえ最近のヒット曲は何がいいのかサッパリわからんよ」ってやつ。はたしてそれは本当なのだろうか。ただ懐かしいからいいと思ってるだけじゃねえの?
映画やドラマなんかもそうよね。今のドラマは薄っぺらいよね。昔のドラマは奥が深いよ。・・・って、そんな風に思ってますか?
僕は音楽家で、さらには古いヒット曲の研究家でもあるので、古今東西を問わずそれはそれはたくさんの音楽(ヒット曲)を聞いてきてるのだけど、例えばオールディーズと呼ばれる1950年代の曲は、音も薄いしメロディーもシンプルというか、もはや現代の耳からしたら"ベタ”なものが多いし、それこそつい最近まではあんまり良さはわからなかったのね。リアルタイムで聞いてたわけでもないし、まあ、ただの懐メロじゃないの、みたいな感じ。僕にとっては70年代以降の、それこそニューミュージックと呼ばれた音楽の方が、メロディーもコード進行も演奏も、それはそれは高度でカッコいいもの。
でも、そんな古い曲を自分で歌ったり演奏する機会が増えて、けっこうじっくり味わうと、ちょっと受け止め方が変わってきたのよね。もちろん時代的にテクノロジーの問題は如何ともし難いから音の薄さはどうにもならないけれど、それでも、ヒット曲にはやはりそれらを補って余りある"注ぎ込まれたエネルギーの厚み”があるなとわかってきたのです。だからこそ、遥かなる時代を超えて生き延びてるのだなと。
成長するというのは、とにもかくにもいろんなものを詰め込んで、吸収して、なんとかして厚みを出して、いわばプロレスラーのように"大きく見せたい”というのが最大のモチベーションだと思うのだけど、ある時期がくると"削っていく”というプロセスが必要になるのね。自分は、ドロップキックとボディーシザースドロップだけで勝ちパターンを組み立てるとか、チェンジアップと胸元のシュートで勝負するとか、スタートはじっくり様子を見てタイヤを持たせてレース終盤で勝負を仕掛けるとか、そんなやつ。
音楽や映画でも同じなんだけど、ただ現代は昔とは比べ物にならないくらいに情報量が増えて、吸収するだけでも大変なので、"削って削って自分の本質に近づく”ってのができていないんじゃないかと、最近は思ってるのです。だから、とてつもなく情報量が多くて贅沢に仕上がってるのだけど、それゆえに伝わらなくなってることも多いのじゃないかと。これはなかなか深い問題ですぜ。
とにかく僕としては、締め切りに追われながら音源制作に取り組んでて、どこで「完成」とするかがいつも大問題。つい先日マスターを完成させた安部美香さんの曲は、1971年のサウンドをイメージして仕上げたのだけど、それは単に自分のノスタルジーを満たすためにそうしたのではないのよ。っとそれだけお伝えして、次の楽曲の作成に入ります。いわば、僕の研究成果をお楽しみに。
冴沢鐘己
・6月5日(日)京都 ゼスト御池「わくわくシティーパーク」
出演:TIME FOR LOVE、BBガールズ、籾井優里奈、安部美香、あきっすん、山下圭志、曽我未知子、伊藤直輝、西村美紀、如月凛、久保翔子
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